eco読み物

「自然体」の大事さ

先日、群馬県の吾妻渓谷を歩く機会をいただきました。草津のNPO法人が吾妻渓谷を歩く会を主催してくださいました。

実は昨年のちょうど今頃も、僕はこの吾妻渓谷を歩いていました。

昨年の秋、この吾妻渓谷から東京まで2週間の歩いて木を植える旅をしたのです。吾妻渓谷を歩くのは今回で2回目となりました。

たった一年しか経っていないのですが、渓谷の姿には大きな変化がありました。

ダムです。

吾妻渓谷の上流では、八ッ場ダムの建設が進んでいます。完成すれば、湛水面積3キロ平米の巨大な貯水池ができます。

70年代に、東京の水源確保の目的で、この八ッ場ダムの建設が決まりました。

地元の方達との長年の議論の末、ダム建設決定から30年以上経った昨年から、本格的にダムの建設が始まりました。ダムを造るとなると、ダムそのものの建設以外にも、今使っている道路、線路を付け替えるという大掛かりな工事が各所で必要になります。

今使っている道路はダムが完成すると水の底に沈んでしまうため、高い陸橋道路ができつつありました。渓谷の中に、突如現れる巨大な陸橋。ダムが完成すれば、そのほとんどは水に沈んで見えなくなるわけですが、緑豊かな自然と巨大な建設物とのコントラストがやはり不自然です。

そして、線路も同様にダムの底に沈んでしまうため、山の中腹をトンネルが貫いています。

これはまさに地球大改造工事です。

川原湯温泉駅前を出発して、紅葉の綺麗な遊歩道を吾妻渓谷に向かって歩きました。

樹齢7−80年はあるだろう広葉樹があちこちに立派にそびえています。小さいながらも滝も流れています。

僕達が歩いた遊歩道はあと数年後はダムの底に沈んでしまう道です。

「もうこの木は水の底に沈むのか。」

そう思うと、初めて出逢う木なのに、なんだか愛おしく思えてきます。そして、渓谷を歩いていると、間もなくダム現場に入りました。

紅葉の綺麗な遊歩道の川を挟んだ対岸は、岩肌がむき出しになり、砂利が詰まれ、大きなシャベルのついた重機が停まっています。

昨年この遊歩道を歩いた時には見なかった風景です。

ショッキングな風景でした。

近代化が始まった明治時代から今日まで、日本各地でこういった工事が進められてきているわけですが、いざ、その現場を目の当たりにすると、いつまでもこういった形で、人間の都合で自然に手を加えることに限界を感じざるを得ません。

僕はこういった工事のお陰で、蛇口をひねると何時でも水が飲めて、断水や洪水に脅かされることなく生活することが出来てきたので、「ダム建設反対」とは言えません。

ただ、江戸時代までは、そんな自然と向き合って、たまには断水や洪水などの自然災害も受けながら、そんな時には自然に対して畏敬(いけい)の念を感じて綿々と生活を続けていた訳で、その方がやっぱり自然体だなと思います。

「自然体」

「効率」、「利便性」などのキーワードと並んで、もっとこの「自然体」という言葉が社会づくりのキーワードとなってくれたらよいな。

吾妻渓谷を歩きながらそんなことを感じました。

執筆者紹介
中渓宏一(Seedman)

【プロフィール】
1971年シアトル生まれ。大手商社勤務などを経て2000年9月、サラリーマンを辞めて世界放浪の旅に。2003年、南アフリカで地球を歩いて木を植える男、アースウォーカーに出逢い、その後1年間ジンバブエ、ザンビアを共に歩き、木を植えた。2004年よりは日本中を歩いて木を植えている。

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八ツ場ダム建設現場

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